ドラマの序盤は70年代初頭。1963年に大統領に就任した朴正煕(パク・チョンヒ)が長期政権を執っていた。軍人出身の朴正煕大統領は秘密諜報機関・韓国中央情報部(KCIA)を設置し、反政府活動や共産思想などの取り締まりを強化する一方で経済成長を目標に掲げ、後に“漢江(ハンガン)の奇跡”と呼ばれる発展を成し遂げた。チョ・ピリョンが軍の保安隊班長から中央情報部に入ったのは、“泣く子も黙る”と恐れられ、権力の中枢に最も近い機関だったから。軍や役所等の場面では壁に大統領の写真が掛けられているが、政権交代と共に写真も変わっているのがわかる。

軍事クーデターによって政権を得た朴正煕は経済開発を掲げることによって大衆の支持を求めた。当時国内総生産はソ連を真似て計画経済を推し進めていた北朝鮮が上回っていて、朴政権の韓国も五カ年計画方式の計画経済を導入することとなる。朝鮮戦争により壊滅的な打撃を受け、1人あたりの国民所得は世界最貧国グループであった韓国経済がベトナム戦争参戦と、日韓基本条約を契機とした日本からの経済・技術援助を要因に漢江(ハンガン)の奇跡と呼ばれる急速な経済成長を遂げた。その後、ベトナム戦争で培った施設設営のノウハウと中東に影響力を持っていたアメリカとの良好な関係をバネに1970年代の中東の建設ブームに乗る。1979年の朴正煕大統領暗殺後の1980年、一時的にマイナス成長に転じるが1981年以降急回復し、1988年のソウルオリンピックを成功させ、ソ連崩壊、1997年アジア通貨危機で経済が崩壊寸前となりIMFが介入されるに至るまで高い経済成長を続けた。

今では青山や六本木、白金などに例えられる韓国一のお洒落地区・江南(カンナム)。ソウルを東西に流れる広大な川・漢江の南側一帯は、当時は何もない農村地帯だった。それが政府やガンモのような建設業者らによってビルや高層住宅建設が始まると地価が高騰。財閥グループ各社の競争もこの地を巡って激化していった。李明博(イ・ミョンバク)現大統領は現代建設で一介の社員から会長に昇りつめたという経歴を持つ。このためガンモのモデルではと言われたが脚本家は否定している。ただ、練炭の灰で土地を埋め立てたり、地下鉄路線が変更されたりといった劇中描かれたことは実際にあったことだという。

長らく独裁政権を担った朴正煕大統領が側近によって暗殺されたのは1979年10月26日のこと。ドラマでは具体的な暗殺場面は描かれず、ミジュの先輩ジナがピアノの弾き語りをする直後の銃声と飛び散った血痕のみで暗殺を表現。その後、ニュース音声と議員らの会話で事件が語られる。ちなみにこのとき、ジナが歌っていたのは「クッテクサラム(その時その人)」という歌。これは当時の人気歌手シム・スボンがヒットさせた歌で、彼女は10月26日当日、大統領の宴席に呼ばれていて暗殺の現場に居合わせた。この歌だけでも暗殺を象徴していると言える。シム・スボンはその後数年間、放送出演禁止措置を受けた。

殺人の濡れ衣を着せられ服役したガンモが次に送られたのが三清(サムチョン)教育隊。朴正煕亡き後クーデターにより政権掌握した全斗煥(チョン・ドファン)政権の下で1980年に作られた矯正機関。“社会の悪を一掃する”という名目でヤクザや無宿者などが収監された。だが、その中には民主運動家も多数含まれており、民主化運動弾圧の色が強かったとされる。AからDの等級に分けられ、Aは軍法会議で詮議され、Dは訓戒処分、ガンモのようにBやC級が入隊させられ“教育”を受けた。劇中描かれたように丸太を持ち上げて鍛錬させられるシーンは、三清教育隊が登場する作品ではお馴染みの場面だ。

1980年5月18日から27日にかけて全羅南道・光州市で起きた事件。民主化を求める活動家、学生や市民らが軍隊と衝突し多数の死傷者を出した。今では映画やドラマで取り上げることがタブーとは言えなくなったが、95年にドラマ『砂時計』では三清教育隊共々この事件の様子が生々しく描かれ、当時のニュース映像が使用されたときは大きな反響を呼んだ。ドラマでは、ガンモが三清教育隊で一緒になった男がこの事件によって「愛する女性を亡くした」と嘆く場面が出てくることから、その時期が大体いつ頃かが推察される。

1986年9月にソウルで開催された第10回アジア競技大会。テロップでも“1986年”と出るが、ドラマでは実際の映像もほんの少しだけ使用され、この年の大きなトピックだったことが伝わってくる。87年の民主化宣言、2年後の88年のソウルオリンピック開催を控え、いかに韓国が経済的に発展し、国力が増大したかが窺える。88年には政権が全斗煥から選挙で選ばれた盧泰愚(ノ・テウ)に替わった。ちなみにこのアジア大会が開かれた年、ミヌが行方の知れないミジュを「4年間捜し続けている」というセリフから、ミジュが姿を消したのは1982年だったというのがわかる。